HIVとは(エイズ/AIDS)
【症状・原因・治療法について】

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HIVとは

HIVは、ヒト免疫不全ウイルス(英名Human Immunodeficiency Virus)の頭文字からとったウイルスのことを指します。
人間の体をさまざまな細菌、カビ、ウイルスなどの病原体から守るためには、Tリンパ球やマクロファージ(CD4陽性細胞)などの細胞が重要になってきます。
免疫の役割を持つこれらの細胞に感染するウイルスがHIVです。

性交渉によって性器カンジダに感染することがあるため、性感染症の一種です。
ただし、必ずしも性交渉によってのみ感染するわけではなく、特定の環境下でも感染する可能性があります。

エイズとHIV

エイズは、後天性免疫不全症候群(AIDS:英名Acquired Immuno-Deficiency Syndrome)として知られ、HIVに感染してから免疫の役割を持つ細胞が体内から減少し、免疫力が著しく低下して代表的な疾患を発症する状態を指します。
HIV感染後、エイズ発症の指標となる23の合併症が決められています。
つまり23の疾患のうち1つでも発症していない限りHIVに感染していてもエイズと判断されません。

エイズ指標疾患・23種

真菌症 1:カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
2:クリプトコッカス症(肺以外)
3:コクシジオイデス症
4:ヒストプラズマ症
5:ニューモシスチス肺炎
原虫症 6:トキソプラズマ症(生後1か月以後)
7:クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
8:イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
細菌感染症 9:化膿性細菌感染症
10:サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
11:活動性結核(肺結核*または肺外結核)
12:非結核性抗酸菌症
ウイルス感染症 13:サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
14:単純ヘルペスウイルス感染症
15:進行性多巣性白質脳症
悪性腫瘍 16:カポジ肉腫
17:原発性脳リンパ腫
18:非ホジキンリンパ腫
19:浸潤性子宮頚癌(※)
その他 20:反復性肺炎
21:リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
22:HIV脳症(認知症又は亜急性脳炎)
23:HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)

もっと詳しく知りたい方は、下の厚生労働省が記載している情報からご覧ください。

日和見感染症とは

エイズでは日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)と言う上記のAIDS指標疾患にあるような、通常健康な人は問題のないウイルスや細菌によって引き起こされる感染症になっていきます。

HIVの症状

HIVに感染してから、症状が出てくるまで期間があります。
初期症状も個人差があり、風邪のような軽い症状であったり、一見して判断できる性病ではありません。

HIV感染からエイズ発症までの段階

HIV感染からエイズ発症までの大まかな段階について

感染初期【急性期】

2~4週間の間に発熱・筋肉痛・咽頭痛・リンパ腺の腫れ・頭痛などインフルエンザのような症状が出ます。
この初期症状は通常、数日から数週間のうちに症状が無くなることがほとんどです。

無症状【無症候性キャリア期】

急性期を過ぎると、症状が特に出ない無症状の状態がおよそ5~10年程度続きます。
※10年以上経っても症状があらわれない方、2年程度でエイズを発症する方など個人差があります。

エイズ発症【エイズ期】

特に治療をせずに自然経過した場合、免疫力が著しく低下した状態になります。(免疫不全)

健康な人は感染しないような細菌やウイルスからの感染症、神経障害や悪性腫瘍など合併症(23の指定された疾患)が引き起こされます。

HIV感染の原因

HIVに感染する原因となるのは大きく分けて3つです。

血液から感染
血液が入った注射器のイラスト
HIV感染している血液の輸血・HIV感染者の出血に接触・汚染注射針の使用など
医療従事者の場合、針刺し事故によって感染する可能性もある
性交渉から感染
ラブラブな状態を表すベッドのイラスト
3つの感染原因の中で性行為は最も割合を占めています。
性交によって、女性は膣粘膜、男性であれば亀頭部の粘膜・精液から、アナルセックス(腸管粘膜)、オーラルセックス(口腔粘膜)

→層の厚い口腔や膣粘膜より、単層である腸管粘膜は傷つきやすいためリスクが高まります。

母子感染
新生児と母のイラスト
母親がHIV感染していると、妊娠中の胎児、出産時に子どもに感染・ 母乳もHIVがあるため授乳で感染

→母体がHIV感染しているからといって必ずしも子どもが感染するとは限りません。

HIVの治療方法

HIVの治療は完治させてウイルスをゼロにするということではなく、体内のHIV量をコントロールして免疫力を維持することが目的となります。

抗HIV薬とは

基本の治療方法は、3~4種類の抗HIV薬を服用する「多剤併用療法」です。
近年では複数種類の成分が1つに含有された合剤も出ており、服用方法も単純化してきています。
治療効果も年々向上しており、十分に体内のHIV量も減らせるため、数カ月に1回の筋肉注射剤での治療も出始めています。

使用される薬剤は下記の通りです。

  • 核酸系逆転写酵素阻害剤
  • 非核酸系逆転写酵素阻害剤
  • プロテアーゼ阻害剤
  • インテグラーゼ阻害剤
  • 侵入阻害薬

抗HIV薬服用の注意点

決められた服用時間の間隔が空いてしまったり、数日忘れたりするとウイルスが抗HIV薬に対し、”耐性”がついてしまいます。
そうなると薬剤耐性ウイルスが出てきてしまい、抗HIV薬が効果を発揮しなくなります。
血中のHIV量が増加し、時間が経過したのちにエイズを発症するリスクが高まるため、通常の市販薬のように症状が見られなくなったから安易に服用をやめるということはできません。

エイズを発症しないためにも「飲むことを忘れず」「決められた量」「服用し続ける」このすべてが重要となります。

HIVの感染予防について

日常生活の中でHIVは感染しませんが、血液・精液・膣分泌液・母乳が感染源となります。
健康な皮膚にHIV感染している体液が触れても感染はしませんが、粘膜や傷口に直接触れると感染の恐れがあります。
基本は他人の粘膜、傷口のある皮膚など触れないようにすることが予防の1つです。

母子感染の予防

妊娠時にHIV検査を行うことが最も重要です。
初期にHIV感染が発覚して、適切に処置を行えば新生児への感染リスクをできるだけ低くすることも可能です。
抗HIV薬の服用・帝王切開・人口授乳(母乳ではなく粉ミルクに)といった対策をすることで母体がHIV感染していてもうつす可能性が低くなります。

性感染の予防

No Sex・性行為をしない

これは不特定多数の性交渉は避け、決まったパートナーのみにすること、すでに何かしらの性感染症が発覚している場合は性行為を避けることが重要ということです。

Safer Sex・安全な性行為

性行為では膣挿入・アナルセックスだけでなくオーラルセックスでも口の粘膜から感染することがあります。
HIVだけでなくすべての性感染症予防のためにも、コンドームの使用は基本です。

コンドームを正しく使用しよう
  • 爪などでコンドームに傷をつけないように扱うこと
  • オーラルセックスでもコンドームを使用すること
  • 精液だけでなくカウパー腺液(先走り液)もHIV感染の恐れがあるため、最初から装着すること
  • 一度使用したコンドームは必ず捨てること
  • 潤滑剤は水溶性のものを使用する

    (油性のオイルなどはコンドームが破れることがあるため)

  • 保管状態に注意しよう

    圧力や摩擦に弱いため財布などに入れておかない・車などの高温な場所に置かない

HIV予防薬とは

HIVには薬を用いた感染予防法が2つあります。
HIV感染機会の後または前に抗HIV薬を服用することで感染リスクを低下させる療法です。
医療従事者の事故発生時だけでなく、性交渉の機会が多い方、性風俗で働いている方など、何らかの感染可能性が生まれる方に推奨されます。
日本ではまだこの予防法は浸透していませんが、近年アメリカを中心に世界で使われてきている、高い確率で感染を回避できる対策です。

PEP(ペップ)

PEP(ペップ)は、曝露予防(Post Exposure Prophylaxis)の頭文字からとった薬を用いたHIV予防法の1つです。
服用方法は、HIVに感染したと思われる行為後(曝露後)に72時間以内で抗HIV薬の服用を開始します。
それから1日1回または2回内服を28日間継続して感染するリスクを低下させるという流れになります。

PrEP(プレップ)

PrEP(プレップ)は、曝露予防(Pre-Exposure Prophylaxis)の頭文字からとった事前に薬を服用するHIV予防法の1つです。
ツルバダまたはデシコビという予防薬を使用しますが、服用方法が2つあります。

①デイリー PrEP

抗HIV薬を1種、1日1回1錠を毎日継続して服用します。
(血中濃度を安定させるために、基本的に毎日同じ時間に飲みます。)

②オンデマンド PrEP

抗HIV薬を1種、性行為の前後に複数回服用する方法です。

  • 性行為の24時間前(2時間前まで)に2錠服用
  • およそ24時間後に1錠服用
  • またその24時間後に1錠服用

連日、性交渉がある場合は、24時間の間隔を空けて服用を継続します。 最後の性行為後は2回1錠ずつ服用してください。

HIV感染拡大の対策

現在では適切に治療を継続、抗HIV薬の服用を正しく続けると他者へのHIV感染のリスクも大きく低下することが分かっています。

U=U(Undetectable=Untransmittable)とは
引用)国立国際医療センター

HIVには世界で「U=U(ユーイコールユー)」という表現があります。
これは【HIV検出限界値未満(Undetectable)】=【HIV感染しない(Untransmittable)】の意味を表しており、抗HIV両方を続けることで血中のHIV量が検出限界値未満のレベルに抑えられると、性行為でも陽性者から他の人に感染させる可能性が非常に低くなるということです。
「U=U」はその考え方を広め、エイズ・HIVに対する偏見や差別をなくしていくための世界的に支持されたメッセージです。

HIVを放置すると

HIVの感染に気付かず、治療を受けないで放置した場合、免疫力が徐々に低下していきます。長期間経過してしまうと「エイズ期」に入り、健康体では起こりえない感染症や悪性腫瘍など重い病気にかかるようになります。

しかし、現代は陽性がすぐに発覚して、抗HIV薬を正しく服用し続ければ、血中のHIVウイルスの量が減少し、他者にも感染させるリスクを0にすることも可能です。
HIVは一度感染すると、完全に体内からゼロにすることは不可能ですが、しっかり対処すればエイズを発病することもなく死に至る病気ではありません。

HIVとエイズを正しく理解し、安心できる生活とHIV感染の対策をしていきましょう。

HIVに関するよくある質問

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コンドームを付けていればHIVに感染することはありませんか?

A

コンドームを正しく使用すればほぼ100%安全と言えます。
使用方法と同時に、コンドームの破損にも注意が必要です。
HIV感染だけでなくすべての性感染症に対してはコンドームの使用が欠かせません。

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蚊から感染する可能性はありますか?

A

ありません。HIV陽性者を刺した蚊は、体内ですぐに感染力が無くなります。
他人に蚊から血液が移行する可能性は無いため、蚊からHIV感染の可能性はゼロと言えます。

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梅毒やクラミジアなど他の性感染症にかかっていたら、HIVは感染しやすいですか?

A

性感染症の重複感染という可能性があります。
他の性感染症に感染していると、患部の粘膜組織が弱っているため陰部や咽頭を中心に感染リスクが上昇します。

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他人のカミソリや歯ブラシを使用してしまったらHIV感染のリスクはありますか?

A

何らかの理由で血液が付着していなければHIV感染の可能性はありません。
しかし、粘膜や血液が触れる可能性のある、そういった生活必需品の共有は、最悪リスクがゼロではないため自分専用のモノを使用するようにしましょう。
日常生活でのトイレの便座やお風呂、手で接触したものなどはHIV感染の一因にはならないのでご安心ください。