エクソソーム点鼻に興味はあるものの、「本当に安全なの?」「副作用や危険性はない?」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
一般に「エクソソーム」と呼ばれているものは、細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EV)の一種として扱われています。細胞間の情報伝達に関わることから、さまざまな疾患や再生医療への応用を目指した研究が世界各地で進められています。
なかでも鼻から投与する方法は、針を使用せずに投与できることに加え、鼻腔から中枢神経系へ物質を届ける「nose-to-brain delivery(鼻-脳 送達)」の研究などから注目されています。
エクソソームを用いた治療はまだ発展途上です。
厚生労働省も2024年7月、幹細胞培養上清液やエクソソーム等を用いる医療について、安全性に十分留意するよう医療機関へ周知しています。
この記事では、エクソソーム点鼻が「危険」といわれる理由から、現在わかっている副作用や安全性、過去に報告された死亡事例との違い、治療前に確認しておきたいポイントまでわかりやすく解説します。
エクソソーム点鼻は危険?
結論からいうと、現時点でエクソソーム点鼻を一律に「危険な治療」と判断することは適切ではありません。
実際にエクソソームを鼻から投与するヒト臨床試験も行われており、安全性や忍容性について前向きな結果を示した研究があります。
下記の情報を参考に記述しています。
- PubMed(PMID: 37859748) Xie X, Song Q, Dai C, Cui S, Tang R, Li S, Chang J, Li P, Wang J, Li J, Gao C, Chen H, Chen S, Ren R, Gao X, Wang G. Clinical safety and efficacy of allogenic human adipose mesenchymal stromal cells-derived exosomes in patients with mild to moderate Alzheimer’s disease: a phase I/II clinical trial. Gen Psychiatr. 2023 Oct 11
一方でこれらの研究だけをもって、一般的な承認医薬品と同じように有効性や長期的な安全性が十分確立されているわけではありません。
細胞外小胞を用いたヒト治療研究全体を対象としたレビューでも、研究規模が小さいことや製造方法、投与経路、用量、対象疾患などに大きな違いがあることが指摘されています。
そのため、
「エクソソームだから危険」
と考えるのではなく、
「研究が進められている一方、まだわかっていない部分もある治療」
と理解することが大切です。
2024年|厚生労働省もエクソソーム等について注意喚起
エクソソーム等を用いる医療については、厚生労働省も安全性に関する注意喚起を行っています。
2024年7月、厚生労働省は「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について」を医療機関へ周知しました。
この通知では、2024年7月時点で、使用されるエクソソーム等について、有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品はないとして、安全性に特に留意するよう求めています。
使用する製剤の品質や投与方法、医療機関の管理体制まで確認したうえで治療を検討しましょう。
下記の情報を参考に記述しています。
- 幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知) 厚生労働省
- PubMed(PMID: 38738585) Fusco C, De Rosa G, Spatocco I, Vitiello E, Procaccini C, Frigè C, Pellegrini V, La Grotta R, Furlan R, Matarese G, Prattichizzo F, de Candia P. Extracellular vesicles as human therapeutics: A scoping review of the literature. J Extracell Vesicles. 2024 May;13(5)
- iPS細胞由来エクソソームの臨床応用について(注意喚起) 一般社団法人 日本再生医療学会
エクソソーム点鼻が危険といわれる理由
新しい治療方法であり、研究段階の分野

エクソソームは、細胞から分泌される細胞外小胞(EV)の一種として研究されており、タンパク質や脂質、RNAなどの分子を含んで細胞間の情報伝達に関わることが知られています。
こうした性質から、神経疾患、炎症性疾患、組織修復、ドラッグデリバリーなど、さまざまな領域への応用が研究されています。
ただし、エクソソームを治療として利用する研究は、基礎研究・動物実験からヒトを対象とした臨床研究へと進んできている段階です。
2024年に発表された細胞外小胞(EV)の臨床研究に関するレビューでも、EVに関連する臨床試験は多数登録されている一方、診断目的の研究が多く、治療目的の研究はまだ限られています。
つまり「ほとんど研究されていない治療」ではありませんが、「十分な臨床データが蓄積された確立済みの治療」ともいえないのが現状です。
下記の情報を参考に記述しています。
- PubMed(PMID: 38311623) Kumar MA, Baba SK, Sadida HQ, Marzooqi SA, Jerobin J, Altemani FH, Algehainy N, Alanazi MA, Abou-Samra AB, Kumar R, Al-Shabeeb Akil AS, Macha MA, Mir R, Bhat AA. Extracellular vesicles as tools and targets in therapy for diseases. Signal Transduct Target Ther. 2024 Feb 5
日本では承認医薬品として使用されているわけではない

エクソソーム点鼻は、一般的な保険診療で使用される承認医薬品とは位置づけが異なります。
厚生労働省は2024年7月、ヒトの幹細胞培養上清液やエクソソーム等を用いる医療について、現時点で使用されるエクソソーム等で諸外国を含め有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品はないとしています。
そのため、医療機関で提供されているからといって、「国がその製品の有効性・安全性を審査して承認している」という意味ではありません。
自由診療だから危険というわけではありませんが、治療内容や科学的根拠、考えられるリスクについて十分な説明を受けて判断する必要があります。
製剤によって品質が異なる可能性がある

エクソソーム治療の安全性を考えるうえで重要なのが、「実際に何を投与するのか」という点です。
エクソソームを含む細胞外小胞は、由来する細胞や培養条件、分離・精製方法などによって、その組成や特性が異なる可能性があります。
例えば、
・原料となる細胞
・細胞の由来
・培養方法
・精製方法
・含まれる細胞外小胞の種類や量
・無菌性
・製造工程
・保存・輸送方法
などは製剤によって異なります。
また「エクソソーム」や「EV」
エクソソーム製剤と呼ばれていても、エクソソームのみを高度に精製したものなのか、他の細胞外小胞や培養上清中の成分なども含むものなのかによって内容は異なります。
日本再生医療学会は2024年に細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンスを公表し、リスク評価、製造工程・品質、EVそのものの評価などの重要性を示しています。
さらに、PMDA(医薬品医療機器総合機構)も2026年6月、ヒト細胞由来の細胞外小胞(EV)製剤について、初回治験届時に留意すべき品質関連事項を公表しています。
これは、EVを利用した治療用製剤の開発において、製剤の品質や製造工程などが重要な検討事項となっていることを示すものです。
エクソソームという名称だけで安全性を判断せず、どのように製造・検査・管理された製剤なのかを確認することが大切です。
下記の情報を参考に記述しています。
- 細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版) 一般社団法人 日本再生医療学会
- 【PMDA】 「初回治験届時に留意すべきヒト細胞由来の細胞外小胞(Extracellular Vesicles;EV)製剤の品質関連事項について(Early Consideration)」 一般社団法人 日本再生医療学会
過去には死亡事例もある?エクソソーム点鼻との違い
エクソソームについて調べると、過去に死亡事例や健康被害に関する情報を目にすることがあります。
不安になる情報ですが、これらは投与した製剤や治療方法が異なるため、過去に公表された事例を確認しながら、エクソソーム点鼻との違いを整理します。
2023年|幹細胞培養上清液を使用した治療で死亡情報
2023年10月、再生医療抗加齢学会は「幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したとの情報に接している」と公表しました。
同学会はこれを受け、幹細胞培養上清液およびエクソソームの静脈投与について、医療水準として未確立の療法であるとして、有効性・安全性についてエビデンスに基づく十分な検討を求めています。
また、この公表資料からエクソソームの投与そのものが死亡原因だったと判断できる記載があるわけではないという点と、ここで報告されているのは「幹細胞培養上清液を使用した治療」に関する死亡情報であり、エクソソーム点鼻による死亡事例として報告されたものではありません。
エクソソーム点鼻の危険性を考える際には、投与する製剤の種類や投与経路を区別して情報を確認することが重要です。
下記の情報を参考に記述しています。
- 幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について 一般社団法人再生医療抗加齢学会
2025年|自己脂肪由来間葉系幹細胞の投与中に死亡
2025年8月、厚生労働省は、慢性疼痛に対する「自己脂肪由来間葉系幹細胞」による治療を受けた患者1名が、投与中に急変し、急速に心停止に至り死亡確認されたことが記載されています。
厚労省はその事案を受け、再生医療の提供と特定細胞加工物等の製造について一時停止の緊急命令を出しています。
さらに、2026年1月23日には、関連する細胞加工施設に対して改善命令が出されています。
下記の情報を参考に記述しています。
2026年|別の幹細胞治療でも死亡事例
2026年3月13日の厚労省資料では、医療機関で自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた慢性疼痛治療を受けた患者1名が、投与中に急変し、急速に心停止に至り死亡確認されたとされています。原因が明らかになっていないことから、厚労省は緊急命令を出しています。
さらに2026年4月21日の厚労省資料では、別の医療機関で同じく自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた慢性疼痛治療を受けた患者のうち、少なくとも5名が悪寒・発熱・嘔気などを訴え、少なくとも1名が入院加療を要したことが確認されています。
下記の情報を参考に記述しています。
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について 厚生労働省 令和8年4月21日(火)
- 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について 厚生労働省 令和8年3月13日(金)
これらは「エクソソーム点鼻による死亡事例」ではない
2025年・2026年に厚生労働省が公表した死亡事例では、自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた治療が行われていました。
一方エクソソームは細胞そのものではなく、細胞から放出される細胞外小胞です。幹細胞をそのまま投与する細胞治療と、エクソソームなどの細胞外小胞を利用する治療は、投与するものも治療方法も異なります。
また、2023年に公表された死亡情報も幹細胞培養上清液を使用した治療に関するもので、エクソソーム点鼻による死亡事例として公表されたものではありません。
そのため、これらの事例だけを根拠として「エクソソーム点鼻も同じように危険」と判断することは適切ではありません。
これらの事例は、細胞や細胞由来成分を用いる治療について、投与する物質そのものだけでなく、製造・品質管理、投与方法、医療機関の安全管理体制などを確認することの重要性を示す事例として捉えることができます。
エクソソーム点鼻の安全性について現在わかっていること
ここまでリスクについて説明しましたが、点鼻投与について前向きな研究結果も報告されています。
2023年には、軽度~中等度アルツハイマー病患者を対象として、脂肪由来間葉系間質細胞由来エクソソームを鼻腔内投与する第I/II相臨床試験が報告されています。
この研究では、週2回・12週間にわたって鼻腔内投与が行われ、試験期間中に有害事象は報告されませんでした。研究者らは、試験で用いられた条件において安全性と忍容性が確認されたとしています。
これは、エクソソームの鼻腔内投与についてヒトでの安全性評価が実際に始まっていることを示す前向きなデータです。
また、2024年に発表されたヒトのEV治療に関するシステマティックレビュー・メタ解析では、21報を解析した結果、重篤な有害事象の発生率は0.7%、有害事象は4.4%と推定されました。
ただし、この解析にはさまざまな投与経路・疾患・EV製剤が含まれています。
製造方法や研究デザインのばらつきも大きいため、この数値をそのままエクソソーム点鼻の副作用発生率として使用することはできません。
2023年の鼻腔内投与試験で使用されたのは脂肪由来のエクソソームです。
当クリニックで使用している臍帯由来の製剤とは由来が異なるため、この研究結果をそのまま当院の製剤の安全性の根拠とすることもできません。
現時点では
初期のヒト研究では安全性について前向きな結果が報告されている一方、長期的な安全性や製剤ごとの差については、さらに研究が必要
と捉えるのが適切でしょう。
下記の情報を参考に記述しています。
- PubMed(PMID: 38958077) Van Delen M, Derdelinckx J, Wouters K, Nelissen I, Cools N. A systematic review and meta-analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle-based therapy. J Extracell Vesicles. 2024 Jul;13(7):e12458.
エクソソーム点鼻の副作用と確認しておきたい注意点
エクソソーム点鼻にはどのような副作用がある?
エクソソーム点鼻では、鼻の刺激感や違和感・鼻水・くしゃみ・鼻づまりなど、点鼻に伴う局所的な症状が生じる可能性があります。また、生体由来の成分を使用する製剤であっても、アレルギーや過敏反応などのリスクを完全に否定することはできません。
また、エクソソーム点鼻は全身への影響や長期的な安全性、繰り返し使用した場合の影響など、まだ十分に解明されていない点もあります。製品によって成分や製造方法などが異なる場合もあるため、使用を検討する際にはこうした点も確認することが重要です。
エクソソーム点鼻を使用する前に確認したい注意点
使用する製剤については、エクソソームの由来や成分、製造方法、品質管理などを確認しておくことが大切です。
また、鼻炎や副鼻腔炎などの持病がある方、医薬品やサプリメントを使用している方、妊娠中・授乳中の方などは、使用前に医師へ相談してください。
自宅で使用する場合は、医療機関から案内された使用量・保管方法などを守り、自己判断で使用量や回数を増やしたり、使用期限を過ぎた製剤を使用したりすることは避けましょう。
使用後に普段とは異なる症状が現れた場合も、使用を続けず医療機関へ相談することが重要です。
エクソソーム点鼻の副作用や注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
安全に治療を受けるためには医療機関選びも重要
エクソソーム点鼻を検討するときは、価格や「高濃度」といった情報だけで判断せず、治療内容や製剤について十分な説明を受けられる医療機関を選ぶことが重要です。
特に、期待できる効果だけでなく、現在わかっていることとまだ十分にわかっていないこと、副作用やリスク、自由診療としての費用などについても説明を受けたうえで、治療を受けるか判断しましょう。
エクソソーム点鼻を受ける医療機関の選び方や、注意したい広告・説明について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
まとめ
エクソソーム点鼻については、長期的な安全性データが十分ではないことや、製剤によって製造方法・品質などが異なることから、安全性について慎重に判断する必要があります。
実際に、2023年には幹細胞培養上清液を使用した治療で死亡事象が発生したとの情報を受け、再生医療抗加齢学会が注意喚起を行いました。2025年・2026年には、自家脂肪由来間葉系幹細胞を用いた治療中の死亡事例も厚生労働省から公表されています。
これらは「エクソソーム点鼻による死亡事例」として報告されたものではありません。
幹細胞、幹細胞培養上清液、エクソソームはそれぞれ異なり、さらに静脈投与と点鼻でも投与方法が異なります。
一方、エクソソームの鼻腔内投与についてはヒトを対象とした初期の臨床試験も行われており、安全性や忍容性について前向きな結果も報告されています。
現時点では
「安全性について前向きな研究結果が出始めている一方、長期的な影響や製剤ごとの安全性については、さらに確認が必要な段階」
と理解するのが適切でしょう。
エクソソーム点鼻を検討する場合は、メリットだけでなく、現在わかっているリスクやエビデンスの限界についても理解し、使用する製剤の由来・品質管理・安全性検査などについて十分な説明を受けることが大切です。
不安な点や持病、使用中の薬などがある場合は、治療を始める前に医師へ相談し、自分の状態に適した治療かどうかを確認しましょう。





