淋病とは
淋菌(りんきん)という細菌に感染して引き起こされる性感染症(STD)の一つです。
原因菌:淋菌の特徴
英語ではNeisseria gonorrhoeaeと表記し、医学的には淋菌感染症と呼ばれます。
淋菌はナイセリア属のグラム陰性双球菌という菌種でナイセリア属の菌は全部で11種類の存在が確認されており、その内病原性のものは、この淋菌と髄膜炎菌のみです。
淋菌の大きさは0.6μm~1.0μmで線毛のある型と線毛のない型に分けられます。
線毛は電子顕微鏡で確認できますが、光学顕微鏡では確認できないほど極細の構造です。
生きている淋菌は、この線毛を活発に動かし粘膜上皮に付着、粘膜下に浸入するものと思われます。
患者から採取した淋菌を血液寒天培地で培養すると、この線毛は消失します。
病原性にはこの線毛が重要な鍵を握っていると考えられます。
もう一つの特徴として淋菌に感染しても淋菌の抗体ができにくいという特徴があり、一度感染すると菌が体内から自然に駆除されることはありません。
そのため再感染することもある厄介な性質をもっています。
淋菌自体は弱い
原因菌となる淋菌自体は非常に弱く、日光や温度差、乾燥によって死滅します。
したがって、公衆風呂、プール、サウナなどで感染することはありません。
ですが人の粘膜にいる間は生存できるため、感染経路は人の粘膜から人の粘膜へ感染していく経路のみになります。
淋病の傾向
淋菌感染症は20歳代の性活動が活発な年代に多く、患者数は年々増加傾向にあり、診断される人の割合は男性が多いですが、これは女性に自覚症状がないことが多いことが一因であるといわれています。
さらに淋病に感染した後に放置しているとエイズや梅毒などの他の性感染症にかかりやすくなります。
淋病の症状と感染原因
淋病の症状
淋菌性尿道炎 | 淋菌性子宮頚管炎 | 淋菌性咽頭炎 | |
---|---|---|---|
性別 | 主に男性 | 女性 | 男女 |
発症期間 | 感染後1週間程度 | 2~7日 | |
症状 | ・強い排尿痛とともに大量の膿を尿道口から排泄 |
・帯下(おりもの)の増加や子宮出血など
・明らかな症状は現れない場合が多い |
・喉の痛みや違和感
・首のリンパ節が腫れる ・無症状の場合も多い |
悪化すると |
・亀頭が赤く腫れ、精巣上体炎が起きる
・さらに悪化すると強い圧痛と高熱、男性不妊症へ |
悪化すると卵管炎や卵巣炎を発症し不妊症の原因に | 扁桃腺まで炎症が広がる |
主な原因 | 性行為(オーラルセックスを含む) |
淋病になる感染経路

性行為(セックス、オーラルセックス、アナルセックス)などで粘膜に感染するため、とても感染しやすい病気の1つでもあります。
潜伏期間は2~7日ほどで、感染部位は男性の場合は尿道や肛門や咽頭で、女性の場合は膣や肛門や咽頭です。
淋病の治療法
淋病の治療に使用される抗生物質は処方薬のため、市販はされていません。 治療の際には、病院やクリニックでの処方が必要です。
注射
筋肉注射を1回行います。スペクチノマイシン(アミノグリコシド系)という抗生物質を、お尻(臀部)に注射します。
筋肉注射は静脈注射の次に吸収が早い方法です。
筋肉というのは血管が多いので、抗生物質の吸収率が高く、吸収のスピードもそれなりに速くなります。
お尻はとくに筋肉の量が多く、傷つけると危険な太い血管や神経も通っていないという利点があります。
また、一般的に筋肉注射を肩(三角筋)に打つよりも痛みを感じにくいとされています。
点滴
セフトリアキソン(セフェム系)という抗生物質の点滴を15分~30分静脈に投与していきます。
淋菌が咽頭にも感染している場合、スペクチノマイシンは咽頭には効きにくいため、セフトリアキソンでの治療になります。
経口薬
飲み薬で治療する場合も抗生物質が有効です。
主にセフトリアキソン、スペクチノマイシンを併用することになりますが内服のみでの治療は既存の抗生物質が効かないということもあり現在では推奨されておりませんが注射・点滴を打てない方に対しての治療方法になります。
抗菌薬耐性について
最近、一番大きな問題になっているのが、抗菌薬耐性化の現象です。
これは今まで使っていた抗菌薬に対して淋菌が耐性を獲得することです。
抗菌薬の乱用により抗菌薬耐性化が進むと淋菌に対して使える抗菌薬がなくなっていき、後述の抗菌薬の耐性を持った菌(スーパー淋菌)も出てきているので淋病の治療が未来において非常に難しくなっていきます。
淋病の感染予防・再感染対策
淋病の感染予防

- 禁欲する。
- 不特定多数(確率的にその中に感染者が含まれているため)との性行為の自粛する。
- コンドームを装着する。
これらの感染対策をすることによりセックス、オーラルセックス、アナルセックスによる感染リスクを大幅に下げることができます。
淋病の再感染対策
もし感染した場合には治療を行い淋菌が完全に駆除された状態にすることが重要です。
治療を行ってから4週間後に検査をして駆除されたかどうかを確認します。
パートナーとともに淋菌を完全に駆除できていない状態での各種セックスはピンポン感染(お互いに病気をうつしあうこと)を引き起こすことになります。
淋病を放置すると

淋病を放置すると、症状が悪化しさらなる健康リスクが増大します。
症状が進行することで、体の奥の方へと感染が広がる「上行感染」となってしまいます。
男性の場合
尿道炎から感染が進行し、”精巣上体炎”を引き起こす可能性があります。
男性生殖器の痛みや腫れ、発熱などの症状があらわれます。
さらに炎症が進行すると、精子が適切に生産されなくなり不妊症の原因になることがあります。
女性の場合
初期の膣や尿道の炎症から、放置され症状が進行すると、さらに奥へ感染が進み、卵管で炎症が引き起こされることがあります。
この炎症により、卵管が閉塞、癒着する恐れがあります。
卵管が影響を受けると、将来的に不妊症や子宮外妊娠のリスクが高まります。
さらに妊娠中に淋菌に感染すると、早産や流産の原因にもなるため、迅速な検査と適切な治療が大切になります。
淋病に関するよくある質問
キスで淋病はうつりますか?
淋菌性咽頭炎の状態でキスをしても感染する可能性は低いと考えられています。
ディープキスの場合は感染の可能性を否定できません。
クラミジアと淋病との違いは明確に分かりますか?
性感染症の中でもこの二つは症状が似てる部分が多いです。
病原菌自体は異なりますが、二つとも無症状であることも珍しくなく、尿道やおりもののちょっとした違和感だけでは判断が難しいです。
そのためクラミジアか淋病、また別の感染症にかかっているか確定させるには検査をすることが最も重要です。
一回でもゴムなしで性交渉すれば、淋病にかかりますか?
100%ではありませんが、感染する可能性はもちろんあります。またコンドームを付けない性交渉は一度でも、淋病だけでなく、全ての性感染症にさらされる危険性があります。
コンドームのつけ忘れはもちろん、傷がついていたり、破れていたり、正しい使い方ができていない場合でも感染のリスクが高まります。
必ずコンドームを付けて安全なナイトライフを楽しみましょう。
淋病の治療期間はどのくらいですか?
内服薬の場合、服用してから2、3週間ほどで症状が治まることが多いです。
症状が無くなったからと言って、100%完治したというのは検査をしないと分からないので3週間経過した後に、再度検査することをお勧めします。
淋病の治療中に自慰行為(オナニー)はできますか?
尿道を傷つける可能性があるためお勧めできません。
感染した状態で着用した下着をいっしょに洗ってもいいでしょうか?
淋菌は人の粘膜でのみ生存が可能のため外気の下では数時間で死滅するので問題ありません。