梅毒とは?詳しい症状・治療と費用相場について

梅毒(ばいどく)とは

梅毒の歴史は古く、約500年以上遡ります。
1495年には初の大規模な流行が報告され、16世紀にはヨーロッパ全域で深刻な問題となりました。
19世紀には梅毒の病原体が発見され、20世紀にはペニシリンの発見によって治療が改善されました。

梅毒になる原因は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)という細菌が感染した個体の体液(血液、精液、膣分泌液)に存在し、感染した人から人へ伝染して引き起こされる性感染症です。
この細菌は、性行為や感染した母親から赤ちゃんに感染することによって広まります。

梅毒の特徴と症状

梅毒の特徴

性行為時の粘膜や皮膚の小さな傷から梅毒が感染します。
性器・肛門・口内に【初期硬結】と呼ばれる非常に小さなしこりが現れ、赤く腫れて硬いのが特徴です。
全身に発疹が現れた後、症状が一時的に消えて、それが自然治癒されたと勘違いされることがあります。
こういった勘違いから、梅毒の発見が遅れる危険があります。
検査・治療の遅延や放置は、梅毒トレポネーマウイルスが進行して、脳や心臓などに深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
また、梅毒はHIVの感染リスクを高める可能性があります。

梅毒の症状

梅毒の症状は4段階に分けられていました。
4期は3期顕症(晩期顕性梅毒)の次のステージの位置づけにありましたが、近年は医学の進歩により、早期治療によって梅毒の進行と合併症を予防できるようになり、その結果、4期が3期に統合されました。
ステージ分類は地域や医療機関によって異なる場合があります。

また、梅毒トレポネーマは、妊娠中の母親が感染すると細菌が胎盤を通じて胎児に感染します。
出生前に梅毒に感染した状態で生まれた新生児は、重篤な問題が抱えて生まれる可能性があります。
最悪の場合、死産や早産といった事態に発展することも予測されます。

一般の梅毒症状

病期分類 発症期間 症状
1期顕症
(早期潜伏性梅毒)
3週~3ヶ月 感染部位に発疹やただれ(かさぶた)の症状が現れ、この段階で梅毒が伝染する
2期顕症
(早期潜伏性梅毒)
3ヶ月~3年 1期顕症の症状が一時収まる
その後、全身に発疹やただれ、口内炎、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れなど
3期顕症
(晩期顕性梅毒)
4期顕症
(梅毒末期)
3年~10年 【3期顕症】
感染者の内臓、神経系、骨、関節などに影響
心血管症状、ゴム腫、進行麻痺、脊髄癆など重篤な臓器障害の合併症が生じる
【4期顕症】
脳や血管系に病変を引き起こす
進行麻痺や脊髄癆、多くの臓器に腫瘍を形成、神経系にも広がる
手足の麻痺や歩行障害、感覚障害、思考力の低下、認知症などの神経梅毒症状

新生児の先天性梅毒

病期分類 発症期間 症状
早期先天梅毒 生後3カ月以内 水疱や赤銅色の発疹、体にや盛り上がったこぶ、口や鼻からの粘液・膿・血液流出
リンパ節や臓器の腫れ、眼や脳の炎症、けいれん、髄膜炎、知的障害が起こり、生後8ヶ月くらいの乳児では骨や軟骨の炎症により発育不良が生じる
晩期先天梅毒 生後2年以上 鼻や口に潰瘍ができ、失明や角膜に瘢痕ができる視覚障害・難聴を引き起こす聴覚障害や顔・歯の発達異常、中枢神経異常

梅毒になる感染経路

感染の種類 感染経路
性的接触 感染したパートナーとの直接的な性的接触(性器の接触、口唇・肛門性交)による感染
垂直感染 妊娠中の母親が梅毒に感染し胎盤を通じて細菌が胎児に伝染して感染
血液感染 梅毒感染した血液が直接、他の人の体内に入る血液感染
注射針の共用、感染した血液製品の輸血などから感染

梅毒の感染率

近年の梅毒の発生頻度のデータとして、

日本では2010年以降、報告数は増加傾向であり、2018年の年間累積報告数は6,923人と増加の一途を辿っている。年齢別では、男性は20-50歳代、女性は20-40歳代が増加しており、男性は2009年以降、同性間での性交渉による感染が50%以上であったが、2015年以降は異性間での性交渉による感染割合が増加している。女性は、異性間での性交渉による感染が過半数を占めている。感染から1年未満の梅毒患者と、性交渉した際の感染率は約30%と推定されている。

一般社団法人「日本感染症学会」

という記述がされています。
また、下記のグラフは「東京感染症情報センター」のグラフをもとに抜粋して作成したグラフです。

このように同じ年表でみても2つのデータで感染者数が異なります。
この感染者数の差異は、調査機関が異なることで、それぞれに報告される感染者数が違うためです。
つまり、実際に梅毒に感染されている人は、この数字以上に多く存在するということです。

梅毒の再感染率について

男性同性愛者における梅毒の再感染について

梅毒は1度感染すると血液中に一定の抗体がありますが、再感染の予防にはなりません。

ここで少し違う観点で、梅毒の再感染について例を挙げてみましょう。
2013年に病原微生物検出情報(IASR)で報告された梅毒に関する男性同性愛者でのデータです。

男性同性愛者(MSM)はHIVの新規感染のリスクであると同時に梅毒感染のリスクでもあり、米国での一期・二期の梅毒感染のうち72%がMSMでの発症である。米国メリーランド州ボルチモア都市圏は全米でも第2の梅毒罹患率、第6のHIV感染率を示しており、対策を講じるために、米CDCとメリーランド州、ボルチモア市、およびボルチモア郡が協力してMSMの中での梅毒とHIVのハイリスク群を同定することとした。2010年および2011年の性感染症およびHIVのサーベイランスデータと接触調査のための面接記録から、15歳以上のボルチモア市および郡に住むMSMで梅毒感染が疑われた者を調査した。460人のMSMの中で、初期梅毒は493例あり、92例(20%)は再感染が認められた。 『男性同性愛者における梅毒の再感染とHIVの共感染―米国・メリーランド州ボルチモア都市圏』-NIID【国立感染症研究所】

この記述はあくまで、同性愛者における梅毒の再感染とHIVの共感染についてですが、記述によれば『初期梅毒493例中再感染者92例(20%)』ですが、これはかなりの再感染率であることがわかります。

同性愛者を例に再感染についてご説明しましたが、梅毒の再感染は十分に可能性があります。
未治療の梅毒感染者の再感染率は高く、感染を放置すると再感染のリスクが増加します。
適切な治療を受けて完治し、安全なセックスプラクティス(性交に関連した行為)を実践しましょう。
コンドームの使用や信頼できるパートナーの選択など、予防策を重視して梅毒から身を守りましょう。

梅毒の治療法

梅毒の治療法は、これまでにご説明した梅毒の病期経過によって治療法が異なります。
正しい診断としっかりと治療を受ければ梅毒は完治します。

病期分類 治療法 治療回数 治療期間
1期顕症
(早期潜伏性梅毒)
注射 1回 1回
点滴 2~4週
経口薬 1日2回~6回 2~4週
2期顕症
(早期潜伏性梅毒)
注射 1回 1回
点滴 4~8週
経口薬 1日2回~6回 4~8週
3期顕症
(晩期顕性梅毒)
注射 3回 1週間おき
点滴 8~12週
経口薬 1日2回~6回 8~12週
4期顕症
(梅毒末期)
注射 3回 1週間おき
点滴 8~12週
経口薬 1日2回~6回 8~12週

注射

海外の梅毒治療の第一選択である「ペニシリンG」注射の投与は以前、日本では使用できませんでした。
しかし、2021年9月に梅毒の世界的な標準治療薬である『ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤』を国内で製造販売が承認され、筋注製剤を用いての治療が可能になりました。

点滴

神経梅毒は通常、「ベンジルペニシリンカリウム」または「セフトリアキソン」を点滴静脈注射で治療します。

経口薬

アモキシシリンは1回500mg、ミノサイクリンは1回100mg、スピラマイシンは1回200mgを投与する治療です。

その他の治療法

ペニシリンアレルギー

「塩酸ミノサイクリン」、「ドキシサイクリン」「テトラサイクリン」などの代替の抗生物質で治療。
投与期間はおよそ2週間〜4週間です。

妊娠中の場合

妊娠中の神経梅毒の治療では、胎児への副作用を考慮し、「アセチルスピラマイシン」が使用します。
一方、ペニシリン治療では妊婦と胎児の両方に対して治療が可能ですが、成分:エリスロマイシンが胎盤を通過しづらいため、出産後、新生児に対して別途治療が必要となります。

抗生物質の種類には副作用やアレルギーがあり、主な副作用は下痢です。
抗生物質は腸内細菌にも影響を及ぼすためです。
治療期間が長いため、服用が困難な時は医師に相談しましょう。

梅毒の治療費相場

●抗原検査8,000円~8,800円程度
●治療11,000円~13,500円程度
●薬代2,000円程度
●保険/適用あり(3割負担)
●診察料(初診) 無料~2,500円程度 / 再診 無料~1,500円程度
※症状の重症度によって治療内容が異なり治療費が変わります。

当院の独自調査による情報になります。
ご参考いただき詳しい費用については各クリニック・病院へお問い合わせください。

梅毒の感染予防・再感染対策

梅毒の感染予防

ペニシリンGやアンピシリンなどの経口ペニシリン薬(ペニシリンアレルギー患者には経口セフェム薬やマクロライド薬等)の常用量を2週間程度投与することで感染予防できます。

梅毒の再感染対策

粘膜や皮膚への直接接触や気づかない病変を防ぐため、性交時にはコンドームを使用しましょう。
しかし、コンドームは完全な予防ではないため過信せず注意が必要です。
感染予防には、感染力の強い早期梅毒患者との性行為を避け、不特定多数との性交渉を控えることが基本です。

梅毒を放置すると

梅毒は早期~後期の4期で病期が分かれており、放置した梅毒は徐々に体を蝕んでいき、合併症や重篤な健康問題を引き起こし、最悪の場合「死に至る」ことも稀にあります。
また、早期であれば治療期間も短く完治することができますが、後期に入ると治療期間も8週~12週と治療期間が長期に渡ります。

梅毒に限ったことではありませんが、性感染症は放置して自然治癒することはありません。

性病に関するよくある質問

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梅毒の症状は何ですか?

A

梅毒は3つの段階に分かれます。
初期段階で、感染部位に発疹や潰瘍、2段階で、全身に発疹、発熱、リンパ節の腫れ3段階では、内臓や神経系へ影響が現れます。

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梅毒の治療は可能ですか?

A

梅毒は早期に診断されれば抗生物質による治療が可能です。通常、ペニシリンが最も一般的に使用されます。

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梅毒は他の人に感染する可能性はありますか?

A

性的接触を通じて感染することが最も一般的ですが、感染した妊婦から胎児にも感染することがあります。

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梅毒は治療しないとどのような合併症が起こる可能性がありますか?

A

放置すると、重篤な合併症が起こる可能性があります。
梅毒症状が3段階まで進行すると、心血管系や神経系に深刻な損傷を引き起こすことがあります。
心臓の弁膜症、大動脈瘤、脳や脊髄の梅毒性髄膜炎、神経学的な問題などが一般的な合併症です。

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梅毒は他の性感染症とどのように関連していますか?

A

梅毒は性行為を介して感染する性感染症の一つです。他の性感染症と同様に、梅毒に感染することでHIV(エイズ)感染リスクが増加する可能性があります。
また、梅毒と同時に感染している場合、治療計画において他の性感染症の検査も行われる場合があります。