トリコモナス(Trichomonas)とは
トリコモナスは、トリコモナス原虫(アメーバのような肉眼で見れない生物)によって引き起こされる性感染症の一つです。
この感染症は男性と女性で異なる症状を示すことがあります。
女性の場合、臭いのあるおりものが増加したり、性交時の痛み、膣炎などが引き起こされ、男性の場合、尿道炎を引き起こすことがあります。
男性は女性に比べ症状があらわれることが少なく無症状のことが多いとされています。
トリコモナスの特徴
長径0.01~0.025mm程度のトリコモナス原虫という寄生虫による性感染症です。
19世紀後半に始まり、1836年にドイツのシュルツェによって初めて発見されました。
トリコモナスは寄生性の原生生物であり、性行為によって感染し、女性では膣炎を引き起こすことが多いSTD(性感染症)です。

鞭毛を持つ単細胞生物
トリコモナスは前端に複数の鞭毛を持つ単細胞の原生生物で、単一細胞で構成されています。
細胞内に核、細胞質、細胞膜などの基本的な細胞構造を持っています。
トリコモナス原虫は、乾燥環境にはとても弱く、生きることができません。
しかし反対に、水の中など水分の多い場所では長時間生き続けることができます。
寄生生活
トリコモナスは寄生生物であり、主に消化器官や生殖器に寄生しているため、性行為によって性器から性器へ性的接触を通じて感染が広がります。
トリコモナスの症状
トリコモナスによる症状は男性と女性で異なります。
女性は男性よりも症状が強く、特に、臭いによる悪臭が性器(膣内)から発することがあります。
性別 | 発症期間 | 症状 |
---|---|---|
男性 | 1週間~10日前後 |
|
女性 | 1週間~3週間前後 |
|
トリコモナス感染症は、50%~3/4の人が無症候性であると言われるほど、感染していてもほとんどの人に症状が現れない厄介な性病です。
トリコモナスになる感染経路
感染の種類 | 感染経路 |
---|---|
性的接触 | 直接的な性的接触(性器同士の接触)間接的な接触(性器から手や口への接触)でウイルスが伝播
感染者が症状を示さなくても感染 |
垂直感染 | 妊娠中の母親がトリコモナスに感染し胎盤を通じて細菌が胎児に伝染して感染 |
経口性行為 | オーラルセックス(口から性器への接触)も感染経路のひとつ |
その他 | 浴槽や便座など水気のある場所、トリコモナスが付着した下着・タオルの共有からも感染
性行為の経験がない方や幼児にも感染 |
なお、トリコモナスは乾燥に非常に弱い一方で、水辺(水中)には強く長時間の感染性があります。
トリコモナスは37℃からやや低い温度が最も活発的に活動します。
トリコモナスの感染率
一般的に、クラミジア感染症や淋病などがよく知られている性感染症ですが、実は日本でもトリコモナス症が広まっています。
世界保健機関(WHO)が2016年に15歳~49歳を対象にした調査報告によると、新規の性感染症患者数は3億7630万人、うちトリコモナスは1億5600万人という報告があります。
この数値は世界の感染者になるので、地域差はあるものの、日本でもトリコモナスの感染者が増加していることも間違いありません。
これは、毎日世界で100万人の新たな性感染症に感染しているというWHOの会報でオンライン公開された記事が理由に挙げられます。
女性にトリコモナス感染者が多い
トリコモナス感染症は、比較的軽度の性感染症であり、重篤な後遺症はほとんど報告されていません。
ただし、1回の性行為での感染リスクは高く、特に女性の間で、比較的多くの人がトリコモナスに感染しており、日本人女性の約5〜10%がトリコモナスに感染していると推定されています。
生理中に感染しやすい
トリコモナス感染症では、最も一般的なのはトリコモナス腟炎です。
健康な女性の腟内は酸性環境であり、乳酸菌によって雑菌の侵入が防がれます。
しかし、妊娠時や生理時に腟内がアルカリ性に変化し、トリコモナス原虫などの侵入が容易になります。
そのため、生理時に性行為や類似した行為を行うと感染しやすくなります。
トリコモナスの再感染率について
トリコモナスの感染経路は広く、性行為以外に浴槽やトイレ、タオルなどの日用品からも感染します。
また、トリコモナスは無症候性のため、自身が治療しても男性パートナーが感染に気付かず性行為を行えば再感染のリスクが高まります。
トリコモナスの感染予防・再発対策

感染予防・対策方法
1. 性行為に注意・コンドームを使用する
トリコモナスだけでなくあらゆる性感染症を防ぐために性行為の際はコンドームを使用しましょう。ただ使用するだけでなく、コンドームに破れや亀裂が無いかを確認し、正しく装着することが重要です。不特定多数との性交渉も注意する必要があります。
男性のみができる予防とは?
女性は膣と尿道が違う位置にあるためできませんが、男性は性行為後すぐに排尿することが予防になる可能性があります。
尿道にトリコモナス原虫がいた場合、すぐに排尿することで尿と一緒に原虫が排出されるケースがあります。
2. 共有、不衛生な状態を避ける
トリコモナス原虫は湿気のある場所を好んで生息します。
そのため予防するにはタオルや入浴施設、トイレなど性器が触れる可能性のある場所などに注意する必要があります。
- タオルの共有を避ける、個々に使用する
- 感染している人との入浴を避ける
- 浴槽のイスやトイレなどで直接性器が触れないようにする
トリコモナスは近年日本で減少傾向にありますが、上記の点を心掛けて、不衛生な状態を避けることが大切です。
トリコモナスの再発予防
トリコモナスは免疫がつくわけではなく、再発を繰り返すこともあります。
再発を防ぐには「治療の途中で中断しない」と「パートナーと連携」が大切になります。
薬の飲み忘れや、症状が無くなったから治療を途中でやめる、などをしてしまうと、トリコモナス原虫が生き残る可能性があり再発してしまうことがあります。
しっかりと指示された用法容量を守って、最後まで薬を服用しましょう。
また、パートナー間で感染症を移しあう「ピンポン感染」のリスクがあります。
完治しないまま性行為をしてしまうと再度感染を繰り返すことがあるため、完治するまで性行為は避けること、パートナー同士では必ず検査・治療を行いましょう。
トリコモナスを放置すると
トリコモナスは
放置すると、男性女性に関わらず症状が重くなったり、不妊症のリスクや感染拡大の危険性が高まります。
男性の場合
男性は無症状であることが多いため、気が付かない間に炎症が悪化している可能性があります。
放置した結果、以下の症状や合併症が発生する可能性があります。
精巣上体炎
精巣上体炎は精子の通り道である精管周囲の炎症を指します。
これにより、陰嚢が腫れ、痛みや発熱が生じることがあります。精巣上体炎は精子の通り道を閉塞し、不妊症の原因になります。
前立腺炎
トリコモナス感染が前立腺に広がると、前立腺炎が発生し、頻尿、排尿困難、残尿感、会陰部の痛み、射精時の痛みなどが現れることがあります。
女性の場合
女性は男性より症状があらわれやすいですが、放置すれば以下のことが発生する可能性があります。
- トリコモナスが卵管や骨盤内に広がると、不妊症や早産、流産のリスクが高まる
- 卵管や子宮内膜に影響を及ぼすことがあるため、妊娠中に合併症が生じることがある
症状がある場合や感染の疑いがある際は、迅速に医療機関へ受診または検査を行い、適切な治療を受けることが大切です。
トリコモナスに関するよくある質問
トリコモナス原虫は目視できますか?
トリコモナス原虫は長径0.01~0.025mm程度の肉眼では見ることができないサイズの微生物です。
目視だけで感染しているか確認することはできません。
トリコモナスはコンドーム使用すれば完全に感染を防げますか?
100%防ぐことは難しいですが、コンドームを装着することはトリコモナスだけでなくその他性病を防ぐために最も大切です。
トリコモナスはタオルや便器などから感染、また性交経験のない方も感染する可能性があるため全てを防ぐことは難しいです。
パートナーがトリコモナスに感染したのですが、自分は症状が出ていないです。感染しているのでしょうか?
トリコモナスは潜伏期間が人ぞれぞれ異なってくるため、無症状でももちろん感染している可能性があります。
ピンポン感染のリスクや、感染拡大の危険性もあるため
パートナーが性病に感染した場合、必ず自身も検査を行いましょう。
トリコモナスはオーラルセックスで喉にも感染しますか?
トリコモナスは基本的に性器に感染しやすいです。
咽頭の感染はゼロではありませんが、リスクは低いとされています。
妊娠中に感染するとどうなりますか?
妊娠中に感染してしまうと、早産や早期破水のリスクが高くなります。
妊娠中は免疫力低下や膣内の自浄作用が弱まりやすいためトリコモナスに感染しやすいです。
また自然治癒しない感染症のためしっかりと検査を行い早期発見することが大切です。